無政府主義的奇跡の宇宙 トマス・ピンチョン

osamuoh2008-04-09

トマス・ピンチョンについて考察された著書であった。



いわゆる思想的には、国の施策からも外れてしまったような、”見捨てられた者”達、””周辺”に追いやられてしまった者達、に光が当たる奇跡的瞬間、周辺的なものと、内側にいるものとのが、入れ違いにになってしまうというような、奇跡的な瞬間を、ピンチョンは描いているという理屈になるらしい。


アナーキストというと、日本の近代文学の歴史では、暗いニヒリズムの事で、絶望的な、暗黒の世界の事であり、無政府主義アナーキズムといわれると、決して喜べない事の意味という歴史的認識がある。


ピンチョン氏は、アメリカで、伝統的な思想に当てはめると、アナーキズムにも望みはあるといった、ほとんど信じがたい事を、あえて描いているらしい。しかしこれは、物差し、言い回しが古いだけで、上からのトップダウンだけからなる社会より、底辺からの、ボトムアップにこそ希望があるのだという、最近では流行のポピュラニスムとして考えれば、そんなに異常な思想ではないようだ。


美術の世界で、ゴミや、捨てられた物を用いて、コラージュするという手法、製作態度があるが、ピンチョン氏の作品では、、”人間そのもの”が、ゴミのような、見捨てられた存在になっているとう信じたくない事実もあるという、真実に思い至らされ、ショックを感じさせられる。


それと、ピンチョン氏の作品で、最も頭の痛い問題が、科学の脅威だ。
科学者は、純粋に科学を研究しているだけと思われるが、それが人間に与える影響を考えると、気を失いそうになる。何はさておいても、科学第一主義の頭の痛さがたまらない。


しかし、人間は、サンプリングされるような、ゴミのような存在なのかと、あらためてショックを感じる。