素晴らしいアメリカ野球  フィリップ・ロス 著

              1976年 集英社版世界の文学34

高橋源一郎氏が、”優雅で感傷的な日本野球”をお書きになったのが、1988年であるらしいので、もう随分と昔の事になる。当時は、高橋氏が何故このような作品をお書きになるのか、ほとんど理解できなかったが、何十年もたって、やっと、基になる作品らしきものを読む事ができた。我ながらなんたる鈍重さ。・・・・・・


当時から、アメリカの最先端の作品を軽々と狩猟なさっていたらしき高橋氏に比べて、なんたる感覚の鈍さ。僕としては随分とコンプレックスを感じていた。今もコンプレックスは変わらないが。


それで、ロス氏の作品だが、とにかく長い。とどまる所知らない饒舌体が延々と続く。野球の話をしていったい何が言いたかったのか良く解らないのも謎だ。しかたがないので、佐伯彰一氏の解説の分析をメモしておく。


1 のべつまくなしともいいたいパロディ調、バーレスク調の連続。
2 手に触れる限り、思いつく限りの対象に向かって、次々と毒づき、茶化せずんば止まない不逞開放ぶり、放漫調。
3 この語り手は、「一体どこまで真面目なのか、ふざけているのか、それすら定かではない 」
4 この小説の語り手は、スミティと名乗る老スポーツ記者、今は養老院暮らしの老人が、 かって現役時代の見聞と思い出を振り返るという体裁
5 ロスは、この長編で、野球というアメリカの国技を取り上げて、徹底的にしゃれのめし  、ふざけ散らそうとしている。
6 げらげら笑わされながら、同時に一瞬不気味な思いすら襲われる。
7 これでもかこれでももかといわんばかりに次々と離れ業的な奇球、魔球をくり出してや  まぬやり口、またはエネルギー、
8 あくまで執拗にこねくり回し、積み重ね、思いつく限りの展開、変奏を試み、みずから の主題をしゃぶりつくさずにはおかないやり方、
9 途方もないナンセンス
10 空想、幻想を駆使しながら、じつにしぶとく、粘っこくアメリカの現実にかかわってい る
10 ねらいは奇抜さそのものにはなくて、現実風刺にある、
11 アメリカの「愛国」心そのものを皮肉り、風刺の的としている、
12 これほど徹底的にアメリカの夢をつぶし、幻影と神話を払い去って、さて何が残るの  か? どこに至りつこうというのか?という疑問を抑えがたい。したかかな喜劇的才能の 途轍も ない自己運動と呟かぬ訳にゆかない、